Stelenkyo

STELENKYO.02「祖母がレーダーに映らなくなってから半年が経つ」

Informações:

Sinopse

『書き出し小説、そのつづき』と題して、過去に書き出し小説大賞で採用された一文の続きを作りました。 第62回書き出し小説大賞(浦賀ペルリ名義) 「祖母がレーダーに映らなくなってから半年が経つ」 祖母がレーダーに映らなくなってから半年が経つ。 映らなくなったことは何度かあった。それでもせいぜいひと月くらいだった。 「もうダメかもな」と祖母をよく知る人は言う。 祖母をよく知る人は、本当に祖母をよく知っている。そんなにも祖母をよく知っている人だからこそ、「もうダメかもな」という言葉には重みがあった。 祖母をよく知る人は、責任者を呼んだ。 しかし、責任者はもう退職しており、前任者の同僚が来ることになった。 前任者の同僚は、すぐに駆けつけてくれた。 祖母をよく知る人と名刺交換をすると、前任者の同僚は「今、上を呼びますんで。何卒、穏便に」と言った。 祖母をよく知る人は、少し苛立って「今後どうすべきか、具体的に教えてください」と言った。 前任者の同僚は「はい、上に確認します」と言って会社用のPHSを出して電話をかけた。 しかし、上は電話に出なかった。前任者の同僚が何度上の留守番電話にメッセージを残しても、上からの返事は無かった。 前任者の同僚が何度目かの留守電を入れ終えると、祖母をよく知る人が「この件を明日、公表します」と告げた。 前任者の同僚は「私は良いのですが、上が何と言うかわかりません」と言った。 誰もが「上はさっきから何も言ってこないじゃないか」と思ったその時、偶然現場に居合わせた人が「上はさっきから何も言ってこないじゃないか」と声に出して言った。 偶然現場に居合わせた人は、祖母をよく知る人に「その筋の専門家を呼ぼう」と提案した。何でも昔お世話になった人の親戚にその筋の専門家がいるそうだ。偶然現場に居合わせたにしては、あまりにも上々の首尾だ。 祖母をよく知る人は偶然現場に居合わせた人に深く頭を下げた。 偶然現場に居合わせた人は昔お世話になった人と連絡を取った。 しばらく昔話に花を咲かせた後、その筋の専門家の連絡先を教えてくれた。 結果を言えば、その筋の専門家は来なかった。 いや、正確に言えば来られなかった。その筋の専門家もまたレーダーに映らなくなっていたのだ。 希望は絶たれた、誰もがそう思った時に電話が鳴った。 匿名希望を名乗るその男性はこちらの事情を全て知っていた。 前任者の同僚が情報漏洩を心配し、また上に留